電池パック安全性評価試験棟建設プロジェクト「世界で唯一の存在を目指して。」
川口 峻さんの写真
第2技術部
川口 峻
試験棟運用にあたってのサブリーダーを務め、
各種試験の作業指揮を執る。この業務に向け、
プロジェクト期間中は関連会社で研修を積む。
第2技術部
中西 利明
電池パックの安全性評価試験や機能試験を行う
ための、試験棟と試験設備の設計全般を担当。
中西 利明さんの写真

車載用電池は、安全性が最重要事項。
あらゆる安全性評価試験に対応した評価設備を導入する。

現在、ハイブリッド車に用いられる電池は、ニッケル水素電池が主流だ。近年、これに変わる次世代の電池として、リチウムイオン電池に注目が集まっている。しかし、まだまだ普及し始めたばかり。その理由は、リチウムイオン電池に可燃性の電解液が用いられており、ニッケル水素電池に比べて取り扱いの難度がはるかに高いことにある。
群雄割拠とも言えるリチウムイオン電池の開発競争では、殊にエネルギー密度や容量に注目が集まりがちだ。しかし、自動車部品には絶対の安全性が求められる。電池それ自体の安全性はもちろんなのだが、それ以上に、クルマに搭載する自動車部品としての電池パックの安全性を如何に担保するか、これが各自動車メーカーにとって大きな開発テーマとなっているのだ。

加えて、車載用電池にリチウムイオン電池を使用する自動車メーカーが増えてきたため、各国で法律を整備する動きが出始めている。つまり、法律で定められた規格を満たさなければ、クルマを販売することができなくなるのだ。そこで持ち上がったのが、電池パックの安全性評価試験を実施するための試験棟 建設プロジェクトだった。

電池パックの安全性評価試験を自社内で行えるようにすることで、電池パックの設計、評価、生産の全てを自社で完結することができるようになる。車載用電池のトップメーカーとして、リチウムイオン電池時代をリードしていくための新たな取り組みだ。しかも、各国で法整備が現在進行形で進行しているために、考えうる最高水準の評価試験が実施できるように先を見越して評価設備を検討しなければならない。もちろん、プロジェクト開始当時、このような大規模な評価設備を持つ施設は、世の中に存在していなかった。つまり、世界で唯一の存在を目指した取り組みだったのだ。

爆風対策に廃棄物対策。
電池のプロが挑んだのは、まったくの異分野。

電池パックに対してどのような評価が必要なのか、その評価のためにどのような試験を行えば良いのか、また、どの水準を合格とするのか、そして、そのためにはどんな設備が必要なのか。試験棟の導入プロジェクト全体の指揮を執った中西利明は、中学生の頃から電池に魅了されていたという根っからの電池好き。評価試験にも精通している「電池のプロ」だ。しかし、今回のプロジェクトは勝手が違った。
評価試験の中には、意図的に電池を爆発させるものがある。電池が爆発してしまう温度 等のデータを得るためだ。当たり前のことだが、この試験では、作業者の安全を確保しなければならない。試験場所と作業者はどれぐらいの距離を保てば安全なのか?爆風や熱から作業者を守るためには、どんな素材で、どれほどの厚みを持った壁が必要なのか?これらは決して、電池のプロの専門領域ではない。しかし、中西が考えるべき業務であることは疑う余地がなかった。
「最初はまったく手探りでした。様々な大学や研究室、建築の専門家を訪ねては指導を仰いで知見を積み重ね、そのうえで設計を行い、高精度の燃焼シミュレーションを実施しました。電池評価と建築という2つの分野を融合させていったのです。」
この他、評価試験終了後の廃棄物が環境に影響を与えないか 等、中西が解決すべき問題は数え切れないほどあった。万が一 火災が発生した際に適切に消火活動が行えるように、「消防設備士」という、消火器を取り扱う人向けの資格を取得したほどだ。
電池のプロでありながら、電池以外のことを深く突き詰めて考える。もしかすると、ストレスに感じる人もいるかもしれない。しかし、中西は嬉々として仕事に取り組んだ。
「1つは、好奇心旺盛で、新しいことを学ぶのが好き、新しいことに挑戦するのが好きという私の性格が理由でしょうね。もう1つの理由は、チームのメンバー一人ひとりが各自の役割を果たしながら、全員で同じゴールを目指していると実感できていたことです。『自分は一人じゃない』という感覚ですね。これがあったから、難題を前にしてもめげることはありませんでした。」

遠く離れた場所でのチャレンジ。
責任感と仲間の存在が力を与えた。

試験棟が建設されるのは、本社がある静岡県湖西市。中西がこの場所で図面や解析データと向き合っている頃、川口峻は遠く離れた愛知県豊田市にいた。川口の役割は、完成した試験棟を運用して各種の評価試験を実施することだ。いわば中西がハードを担当したことに対し、川口はソフトを担当したことになる。そこで川口は、規模こそ違うがリチウムイオン電池に関する類似の評価試験がすでに実施されている関連会社に出向し、試験の運用方法について研修を受けていたのだ。
プロジェクトの担当が決まったとき、川口には「どんな仕事をするのかイメージが沸かなかった」と言う。まして、中西たちが慌ただしく動き回りながら新たなものを生み出そうとしている本社と違い、川口の研修先は、すでにでき上がった「日常」が静かに流れていた。甘えが生じてしまったり、ふと不安になることがあっても不思議ではない環境だ。しかし、川口は自らを奮い立たせていた。
「どんなに素晴らしい建屋や設備を導入しても、運用がついていかなければ狙った評価試験を実施することはできません。そのためのノウハウを吸収して社内に持ち帰るのが私の役割。大きな責任と期待を背負っているのです。『絶対に応えてやる!』という気持ちでいました。それに、報告やミーティングのために本社に帰るたびに、試行錯誤を繰り返しながらプロジェクトをかたちにしていっているメンバーの姿を目にしました。その姿が、『自分もチームの一員なんだ。自分の役割を果たさないと』という気持ちにさせてくれたんです。」
中西と川口がともに指摘した「チーム」の存在。役割は違っても、日々を過ごす場所が別でも、目標は1つ。そのために自分がすべきことに全力を尽くす。そんな想いを持ったメンバーが集まることで、世界で誰も経験したことのない電池パック評価試験棟は誕生した。
私たちの現場
恒温室への電池パック設置作業
-40℃~80℃の環境下で電池パックに充放電することで、地上のあらゆる場所で電池パックが安全に使用できることを実証します。

異例の短期導入を成し遂げた原動力は、
現場と経営陣の垣根の低さだった。

プロジェクトがスタートしたのは2011年2月。建屋の建設と設備の導入が2012年7月に完了し、同年10月には試験棟の運用が始まった。これは、世界最高水準の評価設備を開発するプロジェクトとしては、異例とも言える期間の短さだ。なぜ、こんなにもスピーディーな開発が可能だったのか?その理由は、プライムアースEVエナジー特有の社内体制にあると中西は語る。
「当社では、部長の上はすぐ役員になります。つまり、経営陣の判断を仰ぐためのプロセスが圧倒的に短いのです。そのうえ、経営陣の技術に対する造詣がとても深い。私たち現場の技術陣が抱える悩みや要望を素早く理解し、的確な助言や判断をしていただきました。」
プロジェクト期間中、中西が状況の説明などのために経営陣のもとへ足を運んだ回数は20回以上におよんだ。これだけ頻繁に経営陣と意見交換ができた背景には、部門や役職、キャリアを超えた交流が日常的に行われているという社風がある。誰もが意見を出しやすく、それを受け止めて議論を深める土壌が備わっていたことが、開発のスピードを加速させたのだ。

次世代ハイブリッド車の普及に貢献。
評価技術の可能性はさらに広がる。

プロジェクトが始まる前、自分に与えられている仕事のイメージがつかず、「分からないことだらけだった」という川口。しかし、プロジェクトが進んでいく過程で「分かることが楽しくなってきた」と、自分自身の変化に気が付いた。その言葉は、電池を知り尽くしたベテラン技術者である中西を突き動かした「新しいことを学ぶのが好き」という言葉と重なる。中西は自らの背中を見せることで、将来の会社を背負うであろう川口に対して、技術者としてのあるべき姿を伝えていたのかもしれない。
一方で中西は、プロジェクトを通して「評価」という技術領域の可能性の豊富さを再認識していた。まだまだ技術が確立されていないリチウムイオン電池だからこそ、評価技術が活躍できるフィールドは幅広いのだ。そのことを後輩たちに伝え、技術革新に導いていくことが自分に与えられた役割だと感じるようになった。それゆえに、再び中西は同じ言葉を口にする。「もっと新しいことを勉強して、新たな技術にチャレンジしたい」と。
中西が中心となって計画し、完成した試験棟は今、川口たちの運用のもとでさまざまな評価試験を行っている。もちろんその中身は、「ここでしかできない」というものだ。試験から得られたデータは新たな電池パックの開発にフィードバックされ、性能と安全性の向上に大きな貢献を果たしている。二人が心血を注いだ試験棟から誕生した電池パックを搭載したクルマが街を走り始める日は、そう遠くないはずだ。
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